サーカディアンリズムにあった光で暮らそう2018.09.07

昨年2017年10月のノーベル生理学・医学賞で「サーカディアンリズム(概日リズム)」のメカニズムを発見した3人の米国人研究者(Jeffrey C. Hall博士、Michael Rosbash博士、Michael W. Young博士)が受賞したことは、まだ記憶に新しいと思います。
今後さらなる応用が期待される「サーカディアンリズム」分野の研究。今回は、私たちのサーカディアンリズムと光の関係について考えてみたいと思います。
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協力:安河内朗先生((九州大学大学院 芸術工学研究院 教授)現 日本生理人類学会会長)



サーカディアンリズムって?
circadianrhythmヒトをはじめとするほとんどの生物が体内で刻む約24時間周期の生体リズムのこと。サーカディアンリズムは体内時計によって調整されており、私たちの生命活動にとってとても大切な存在です。具体的には、睡眠と覚醒のサイクルや血圧・体温・ホルモン分泌などがサーカディアンリズムによって変動しています。
サーカディアンリズムの乱れは不眠などの睡眠障害に加え、高血圧や糖尿病、心臓血管系疾患など多くの病気を引き起こす原因になることがわかっています。

 


サーカディアンリズムと光の関係
ラテン語で「約(=サーカ)1日(=ディアン)」という名前が示す通り、サーカディアンリズムは厳密には24時間ぴったりではありません。実は、多くの人が24時間よりもやや長いため、このズレを修正しないでいると、地球の自転による24時間の明暗の周期からどんどん遅い方にズレていってしまいます。
このズレを修正し、毎日規則正しいリズムを刻むために重要な役割を担っているのが、「日中は明るく、夜には暗くなる」という自然界における一日の光の変化です。特に、朝の光にはサーカディアンリズムのズレをリセットする効果がありますが、本来暗いはずの夜に光を浴びてしまうと、さらにリズムを遅らせることになってしまうため注意が必要です。

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第三の光受容体
長い間、私たちがもつ光受容体(光を感じ信号を脳に伝える細胞)は、明暗を識別する桿体細胞と色を識別する錐体細胞だけであると考えられていました。しかしながら、今世紀に入って第三の光受容体「内因性光感受性神経節細胞(ipRGCs)」の存在が明らかとなり、このipRGCsこそがサーカディアンリズム調節のための主たる信号を出していることがわかってきました。
ipRGCsは、青色(短波長域)のエネルギーに最も高い感度を示すため、光が高色温度であればあるほど、サーカディアンリズムもその影響を受けやすいといえます。

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サーカディアンリズムにあった光で暮らそう
curtainサーカディアンリズムを整えるためには夜の光の存在は望ましくありませんが、現代人の生活において、夜に全く光を浴びずに生活することはほぼ不可能であるといえるでしょう。そのため、現代においては朝の光の重要性がさらに増しているとともに、夜の人工照明との付き合い方を考えることが大切だといえます。


そこで、安河内朗先生がこれまでに行われてきたたくさんの実験結果をもとに、“サーカディアンリズムにあった光”を私たちの暮らしに取り入れるためのポイントを教えていただきました。

 

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0800朝:朝起きたらカーテンを開け、しっかりと太陽の光を浴びよう!
朝の光には、サーカディアンリズムのズレを整える効果があるだけでなく、夜、いい眠りにつくために必要不可欠なメラトニンというホルモンの夜間分泌を促進してくれる効果があります。

 

1400日中:午前中は高照度・高色温度(例えば、照度750lx・色温度6000K)がおすすめ。14時以降は、調光調色機能を活用し、徐々に照度と色温度を低下させていきましょう。
一日中一定の光環境になっていませんか?人工照明でも太陽光のような光の変化を再現することで、作業に必要な明るさを保ちつつ、サーカディアンリズムを維持しながら夜の睡眠へスムーズにつなげることができるでしょう。

 

2300夜:夜の光は色温度に注意。居間や寝室の光は、昼光色・昼白色ではなく、電球色がおすすめです。
青色エネルギーの多い昼光色・昼白色の光はサーカディアンリズムを遅らせやすく、またメラトニンの分泌をより強く妨げます。夜の光のこれらの影響を最小限にするため、できる限り低照度・低色温度を心がけるとよいでしょう。

 

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700万年に及ぶ人類史のスケールで考えると、現代のように人工照明が夜を明るく照らす環境になったのはごく最近のことだといえます。実は、私たちの身体は生物学的には人類史の99%以上を占める狩猟採集時代から大きく変化しておらず、今も昔も太陽の光に同調したサーカディアンリズムを刻み続けているといえます。
万病のもととなるサーカディアンリズムの乱れを防ぎ、健康的な毎日を送るため、今回ご紹介した“光のポイント”を上手に取り入れてみてくださいね。

akira_yasukouchi安河内 朗  Akira Yasukouchi
九州大学大学院 芸術工学研究院 教授(現、日本生理人類学会会長)

1977年九州芸術工科大学卒業。大学院、同大学助手を経て、1982~1990年労働省産業医学総合研究所にて生理人類学的立場から労働衛生に取り組む。1986年理学博士。1990年九州芸術工科大学 助教授。1999年同大学 教授。2003年九州大学と九州芸術工科大学の統合により現職。2008年~2010年九州大学 副学長。2005年~2009年、2013年~大学院芸術工学研究院長、大学院芸術工学府長、芸術工学部長、現在に至る。
科学技術文明下の人工環境に当たり前のように過ごしている現代人の適応性を、客観的な資料で検討し、真の快適性とは何かを追求している。例えば、照明を中心とした複合環境の快適性について生体リズムを中心に研究している。
また、企業との共同研究等では、特定の対象製品に対して人間に適合できる具体的条件を提案している。