HOMEMARIOT EYES--INDEX-->特別講演会:安河内朗氏「光のPAデザインとは」 P.1/2/3/4
MARIOT EYES

 夜間照明のPAデザイン?光の色温度が睡眠の質を左右する--


しかし、夜間に光を浴びるなとはいえません。
では、夜の照明はどういう光にしたら良いのでしょうか。

夜の光で考えなければならない大きなポイントは、やはり睡眠です。
良い眠りに入る生理的な条件は、血中のメラトニン濃度がスムーズに上がり、同時に体温がスムーズに下がること。
メラトニンとはホルモンのひとつで、生体リズムを整えたり、抗酸化作用、骨粗しょう症進行の遅延、またがん細胞の増殖を抑制する効果もあることが分かっており、からだのさまざまな機能を整える上で重要なものです。

ところが光自体が、メラトニンの分泌や体温の低下を妨げる働きがあります。
そこで、どういった光がこの変化を妨げる力が弱いかを知る必要が出てきます。
メラトニンは光によって抑制されるので、昼間はほとんど出ていません。
夜になると分泌され、夜中の2時ごろピークになり、また朝にかけて減っていきます。
ですが夜に光を浴びると、その分泌量が抑制されてしまうのです。

睡眠に入る前に浴びていた光(寝室の光)が、消灯後睡眠時のメラトニン分泌量にどのような影響を与えるかを検証しました。
グラフでは、赤が電球色、白が白色、青が昼光色の光を用いた際、睡眠時にメラトニンがどの程度出たかを表しています。
お分かりのように、電球色の光が、最もメラトニンの増加を妨げる力が弱い。
逆に、昼光色の光が、最もその力が強いということが分かります。

また体温の下がり方を見ると、最もスムーズに下がるのは寝室の照明が3000Kの電球色だった場合ですので、先のメラトニンの結果と併せて考えると、寝室の照明は電球色が最も良い。
逆に昼光色は避けたほうが良いということになります。
実際に睡眠中の脳波を測り、眠りの深い時間の長さを調べてみても、やはり、寝室の照明が電球色の場合と昼光色の場合で統計的な違いが出て、昼光色のほうが深い眠りが少なくなるという結果が出ました。

また光の波長でいうと、短波長の青い光が最もメラトニンを抑制するということが分かっています。
では短波長の光をカットすればいいのかということになりますが、非視覚的には良くても演色性が悪くなりますので、この辺りのバランスをどう取るかというところが今後の課題になっていくのだろうと思います。
ご存じのようにLEDは青色光を主体的に使いますので、そういうことをきちんと踏まえて分光分布まで考えていくことが、PAデザインのひとつの仕事になっていくでしょう。

3年ほど前に、台湾の工業技術研究院というところと共同研究をして、どのようなLEDの光ならからだに悪い影響が少ないかという実験をしました。
RGBのLEDを用いて、2300K、3000K、5000Kの3つの分光分布の光をつくりました。
結果としては、非視覚的には2300Kと3000Kが良く、演色性も含めると総合的に3000Kが良いという結果になりました。
実際に試作の3000KのLEDを使い、従来の3000Kと5000Kの蛍光灯とともに、メラトニンの抑制率を比較する実験を行いました。
ここでは、いずれの蛍光灯とも暗いときよりメラトニンの増大は統計的にみられませんでしたが、3000KのLEDでは有意にメラトニンの増大がある(光による抑制力が小さい)という結果が出ています。

またリズムのズレについても実験を行いました。被験者は朝から実験室にこもり強い光にさらされないようにします。
そして夜12時ぐらいから90分間光にさらします。
この光が翌日のリズムにどう影響したかを2日目に確認しようという実験です。
メラトニンが増加をし始める時刻が2日目にどの程度ずれるかを以って、このリズムのズレを判断しました。
たかだか90分間の光では影響は出ないだろうと思っていたのですが、実際には5000Kの場合に約45分、リズムが遅れるという結果が出ました。
LEDでも蛍光灯でも、3000Kでは統計的にみて遅れは出ませんでした。

このように、寝室での照明の影響としては、生体リズムを遅らせたり、メラトニンの分泌を抑制する作用があり、体温の下がり方も小さくなる、眠りも浅くなる傾向がある、またリズムが遅れるということは、寝付く時間が遅れる傾向があるということがいえます。またこういった影響は、夜に関しては、電球色より昼光色のほうが大きいことが分かっています。


 オフィス照明のPAデザイン―作業の種類によって適切な光は異なる--


さて、今度はオフィス照明を考えてみたいと思います。
オフィスは生産性が重要です。
その生産性を上げるには脳の活性化が高いほうが良いわけです。

そこで覚醒水準、つまり脳の活性度を比較する実験を行いました。
電球色と昼光色にそれぞれさらすと、昼光色のほうが覚醒が高い。
そこで、同時に計測した反応時間を比較しました。
普通は、脳の活性度の高いほうが反応も速いだろうと予測するわけですが、逆に、活性度の高い昼光色のほうが反応速度が遅いという結果が出ました。

これをどう解釈するかですが、心理学の分野では、脳の覚醒水準(横軸)と作業効率(縦軸)との間には逆U字の関係があることが知られています。
寝ているときは覚醒が一番低く、起きて頭がスッキリしてくると仕事もはかどります。
つまり右肩上がりです。
ところが覚醒がある水準を超えると、作業効率は逆に落ちてしまうのです。
実はこの現象は日常的に経験していて、イライラしたり怒ったりしているときは、脳は興奮して覚醒が非常に高いが仕事は進まないというのは、皆さんご存じだと思います。
恐らくこの実験でも、被験者自身には、昼光色の光の下で覚醒が高くなっているとか反応時間が遅くなったという自覚はないと思いますが、からだが感じていないところで余分な緊張が生じていることが考えられます。

心電図で心拍変動と呼んでいるものの解析で自律神経の緊張度が分かる指標があります。
それで見ても、昼光色の光ではほかの光と比べて緊張度が高いという結果が出ています。自律神経から見ても昼光色では余分な緊張が生じるのです。

では昼光色はまったく良くないのかというとそうではなく、光をどう使うかが大切だと思います。
例えば、先程の逆U字の関係でいうと、この逆U字自体も作業によっては右にいったり左にいったりするわけで、例えば眠くなるような単調作業の場合は、脳を活性化させる昼光色の光が良いということになります。
逆に、創造的な作業や集中力を要する作業には脳の活動が活発になりがちですので、あまり興奮しすぎないように平常の状態に引き戻すために電球色が有効なわけです。

単純にいえば、昼光色はからだに緊張感を与える、電球色はからだにリラックス感を与えるという考え方で良いと思いますが、作業の種類によってうまく使い分けることで、オフィスでの生産性を高めることもできるのです。

また生産性とは関係なく、やはり午前中は色温度を少し高めに、午後は低くしていくというのが良いのではないかと思います。
実際にあるオフィスでこの調査を行いましたが、省エネも兼ねて、午後から照度や色温度を落としている中でも良い結果が出ました。
暗くしたり電球色にすると眠くなるのではないかという懸念もありましたが、少なくとも、そのような影響はありませんでした。

また例えば会議も様々ありますが、単調な会議や活発に意見を交わすような会議では昼光色が良いかもしれませんし、逆に、重要な戦略会議や白熱するような会議には電球色が良いかもしれません。
これに関しては今、様々な会議を想定した実験を始めているところです。

また接客場面では、対峙して様々な交渉をしますので、お互いが緊張感を持っているところを電球色で少し和ませる。
休息の場ではもちろん電球色が良いですね。





TOP