ブルーライトとの付き合い方2021.01.22

パソコンやスマートフォンなど、身の周りにLEDディスプレイがあふれる現代。眼鏡や液晶フィルターなど、ブルーライトをカットするアイテムが多く発売されており、「ブルーライトってよくわからないけどカットしたほうがいいもの」、すなわち 「ブルーライト=悪いもの」というイメージを持っている人も多いのではないでしょうか?
今回は、ヒト・動物における光の受容とその情報処理について研究されている高雄元晴先生にご協力いただき、改めて、ブルーライトの正しい知識を身につけるとともに、ブルーライトとのよりよい付き合い方を考えてみたいと思います。
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協力:高雄元晴先生(東海大学 情報理工学部 教授)



ブルーライトとは
可視光線の波長はおよそ380~780nm(ナノメートル)。そのなかで380~500nmの青い光をブルーライトと呼びます。光は波長が短くなるほどエネルギーが大きくなるため、ブルーライトは、人の目で見ることのできる光のなかでもっとも強いエネルギーをもつ存在です。
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目で受けた光の情報を脳が処理する過程において、「青」は特殊な存在であり、赤や緑とは異なる働きで処理されているそうです。加えて、私たちの体内にある光受容体(光を感じ信号を脳に伝える細胞)のうち、内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)*は、青い光に最も敏感に反応することがわかっています。
このように、私たちヒトにとって、ブルーライトが“特別”な存在であることはまず間違いないといえるでしょう。

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bluelight_ipRGC*内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)
長い間、私たちがもつ光受容体は、明暗を識別する桿体細胞と色を識別する錐体細胞の2つだけであると考えられてきました。ところが、2002年、高雄先生らが第三の光受容体を発見1)、世界中の注目を集めました。高雄先生らによって内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)と名付けられた第三の光受容体は、私たちの体内リズム(サーカディアンリズム)を調整する司令塔の役割を担っており、480nm付近という短波長の青い光に最も感度が高いことがわかっています。
1)Berson D.M., Dunn F.A. & Takao M, Science 295, 1070–1073 (2002)
※右の写真は、高雄先生が撮影したipRGC。

 

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ブルーライトとサーカディアンリズムの関係
私たちは、光によって、モノの明暗や色、形、動きを視覚的に認識しています。
加えて、無意識の状態であっても、光から“非”視覚的な影響を受けており、その代表例が「サーカディアンリズムの光同調」です。
サーカディアンリズムとは、ヒトをはじめとするほとんどの生物が体内で刻む約24時間周期のリズムのことです。睡眠と覚醒のサイクルや血圧・体温・ホルモン分泌など、生命を維持する様々な機能がサーカディアンリズムによって変動しており、サーカディアンリズムの乱れは不眠などの睡眠障害に加え、高血圧や糖尿病、心臓血管系疾患など多くの病気を引き起こす原因になることがわかっています。サーカディアンリズムは、多くの人の場合24時間よりもやや長いため、「朝明るくなり、夜には暗くなる」という一日の光の変化に同調することによって、私たちはそのずれを無意識に修正しています。
具体的には、朝の光はサーカディアンリズムの位相を前進させるのに対し、夜の光はサーカディアンリズムの位相を後退させます。すなわち、朝の光を浴びるとサーカディアンリズムが24時間にリセットされ整いますが、夜に浴びる光はサーカディアンリズムの乱れを引き起こす原因になります。
このようなサーカディアンリズム調整の司令塔を担っているのが、前述した内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)であり、光の青色エネルギーが大きいと、サーカディアンリズムの位相に及ぼす影響も大きくなります。



ブルーライトとの付き合い方
近年、『夜寝る前にスマートフォンを見ると、眠れなくなるのでやめましょう』といった注意喚起をよく耳にします。確かに、夜に浴びるブルーライトは、サーカディアンリズムの乱れ、さらには睡眠障害を引き起こす可能性があります。しかし、ここで忘れてはならないのが「ブルーライト=悪いもの」ではない、ということです。前述したように、ブルーライトは光のなかでも特に大きな影響力を持つ存在ですが、その影響力は決して悪い面ばかりではなく、良い面にも大きく発揮されます。ブルーライトについて正しく理解することで、悪い影響は避け、良い影響はしっかりと活用できるといいですね。

ブルーライトと適切に付き合うためのポイントは、ずばり2つです。

(ポイント1)朝、積極的にブルーライトを浴びる

(ポイント2)夜、ブルーライトを浴びることは避ける


bluelight_point1_2具体的には、朝6時頃に1~2時間程度しっかり太陽光を浴びることがおすすめです。通勤時に1~2駅分を歩いてみるイメージでしょうか。それが難しいときには、不足分を人工照明で補いましょう。屋内であっても、午前中は青色エネルギーを多く含む高色温度2)の光色に設定することが有効です。
対して、夜の光にはやはり慎重に向き合う必要があります。18時以降は、サーカディアンリズムへの影響力が大きいブルーライトは極力避け、照明も青色エネルギーをあまり含まない低色温度2)の光色に設定するとよいでしょう。
2)色温度とは、光の色を表す単位。黒体に高熱を加えた際に放射される光の色を、そのときの黒体の温度で表現したもの。色温度が低いほど赤みがかった光色、色温度が高いほど青みがかった光色となります。

 

bluelight_nicu同様の観点により、最近ではNICU(新生児集中治療室)の光環境も見直されています。24時間体制の管理・治療を前提とするNICU。これまでは24時間ずっと明るい環境の施設も多かったようですが、最近の研究では、NICU内でも「朝は明るく、夜には暗くする」という24時間の光のリズムをつくり出すことが、赤ちゃんの体重増加や、夜泣きの減少による情緒安定につながることがわかってきたそうです。3)4)光の適切なコントロールは、赤ちゃんの成長にも良い影響を与えてくれるようです。
3)Brandon DH, et al., J Pediatr 140, 192-199 (2002)
4) Guyer et al., Pediatrics (2012)

 


進むブルーライト研究
ブルーライトに関連する研究は多方面に及び、いろいろなことがわかってきています。
例えば、片頭痛。これまでの研究により、片頭痛患者は、ブルーライトへの感度が高まっていることがわかっており、これにより、光を眩しく感じる光過敏や、光を誘因とする頭痛発作を引き起こすことが明らかにされています。5)片頭痛患者に適した光環境の研究も進められており、適切に光をコントロールすることによって頭痛発作を軽減できる可能性があるそうです。
5)Noseda R, Kainz V, Jakubowski M, et al., Nat Neurosci 2010;13, 239-245


ブルーライトといえば、パソコンやスマートフォンなどのLEDディスプレイやLED照明を想像する人が多いようですが、従来光源である白熱電球や蛍光灯の光にもブルーライトは含まれています。さらに、太陽からも多くのブルーライトが放射されており、空の青さは、太陽光に含まれるブルーライトが散乱した結果です。言うなれば、人類はLEDが発明されるずっと前からブルーライトとともに生活しており、太陽の出ている日中も屋内で過ごすことが多い現代人は、人類史のスケールで考えると、ブルーライトを浴びる時間が極端に減少しているといえます。
近年、人工照明の世界では、まるで自然光のような照明を目指すような動きが活発になっています。トップライトから差し込む太陽の日差しを再現する製品、日の出から夜までの移り変わる空の表情を再現する製品、1800K(ろうそくの光のような赤っぽい光色)から12000K(空のような青っぽい光色)という幅広い光色を選択できる製品など、自然光の再現方法はさまざまですが、こうした人工照明の進化によって、ブルーライトをごく自然な形で生活に取り入れられる日も遠くはないでしょう。
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参考:遠藤照明 次世代調光調色シリーズ「Synca」


ブルーライトとは一生を通じて長い付き合いになりそうです。
“なかよく”付き合っていくためにも、まずは光を浴びるタイミングに注意をすることから始めたいですね。

Motoharu Takao高雄 元晴  Motoharu Takao
東海大学 情報理工学部 教授

大阪大学大学院医学系研究科修了。博士(医学)。日本学術振興会海外特別研究員(米国ブラウン大学)、同特別研究員(自然科学研究機構基礎生物学研究所)を経て現職。専門は神経科学と実験心理学。ヒトと動物を対象として、脳内の時計の時間を巻き戻す光の受容とその情報処理について研究している。
主な論文に、Science 295:1070-1073 (2002)、Neuroscience 357: 363-371 (2017)など。