変化する視界2020.03.30

私たちは無意識のうちに、自分と隣の人の目には同じ景色が映っている、と考えてはいないでしょうか?実は、身長や年齢によって、目に見える範囲、すなわち「視界」は大きく異なります。今回は、視界の変化について学びながら、照明との関係について考えてみたいと思います。
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<この記事に登場する用語>

○「視野」:視点を動かさずに見える範囲

○「視界」:視点の移動も含めて見える範囲

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身長による「目の高さ」の変化
身長が低い子どもと高い大人。目の高さが数十センチ違うだけで、見えている景色は大きく異なります。
ここでは、年齢による目の高さの変化を追ってみましょう。
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生まれたばかりの赤ちゃんの身長は約50cm。そこからぐんぐん成長し、1歳になるころには約80cmに、小学校に入学するころには約115cmへと成長します。身長が伸びる時期には個人差がありますが、日本人女性は約160cm、日本人男性は約170cmまで成長し、一般的に成長期を終える18歳ころになると身長の伸びが止まります。そして40歳を過ぎると徐々に身長が縮みはじめ、高齢者になると背中が曲がるなどしてさらに身長が縮みます。この身長の変化はそのまま目の高さの変化となります。

<目の高さの変化(目安)>
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※1 身長は、「平成29年国民健康・栄養調査」を参考に、男女平均の目安値を算出。
※2 目の高さは、身長×0.9で目安値を算出。
※3  国土交通省「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準 (平成28年度)」より


上の表を参考に、想像してみましょう。
shikai_menotakasa_image歩き始めた1歳の子どもを連れたお母さん。子どもとお母さんの目の高さには約80cmの違いがあります。お母さんにとって腰の高さにある低い塀も、子どもにとっては目の前を大きく塞ぐ壁になっているかもしれません。
年齢による違いだけではありません。車いすに乗っている人と立っている人の目の高さには約40cmの違いがあります。以前、『たばこを持つ手は、子供の顔の高さだった。』という日本たばこ産業のポスター(2003)がありましたが、私たちの周りには、目の高さが違うことで気がついていないことがたくさんあるのかもしれません。

 


年齢による「視野」の変化
子どもと大人では、視野にも違いがあります。
視野とは、目を動かさずに見える範囲のことであり、視野の広がりは上下左右の角度で表されます。幼児の視界を体験することができるメガネ「チャイルドビジョン」によると、大人の視野は左右150度、上下120度あるのに対し、幼児の視野は左右90度、上下70度と、大人の6割程度しか見えていないそうです。子どもがよくぶつかったり、転んだりする原因の一つに、この“視野の狭さ”があるのでしょう。

<大人と幼児の視野の違い>
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また、視野の狭さは子どもだけの問題ではありません。新潟県警察による「各年齢層の視野角度」のデータによると、40歳を過ぎると視野は徐々に狭くなり、70代では、20~40代に比べて、水平方向の視野が約20度も狭くなっています。高齢ドライバーによる事故は、視野の狭さによる信号や標識、危険対象物の見落としが原因になっていることも多いそうです。

参考:東京都福祉保健局「東京都版チャイルドビジョン(幼児視界体験メガネ)」
参考:新潟県警察「各年齢層の視野角度」
参考:(公財)交通事故総合分析センター第20回研究発表会「高齢者運転者事故の特徴と発生要因」



視界と照明の関係
身長や年齢によって目の高さや視野の広がりは変化するため、目に見える範囲も人それぞれ大きく異なっています。この「視界」の違いは、照明計画において大切なポイントになるかもしれません。
例えば、やわらかな光が魅力の間接照明。間接照明では、人の視点を考慮し、光源(照明器具)が人から見えないように設計することが鉄則です。
手すりの照明を思い浮かべてみましょう。手すりの裏に照明器具を隠し足元を照らす間接照明の手法は、安全性の面でもデザイン性の面でも有効です。しかし、大人の視点からは隠したはずの照明器具も、子どもの目からは丸見えかもしれません。
多くの人が利用する公共施設など、大人の視点を想定せざるをえない空間もありますが、以下のような空間では、設計時に想定すべき視点もまた変わってくることでしょう。

○利用者が限定されている空間

○利用者の年齢が偏っている空間(例:保育園・幼稚園、老人福祉施設など)


実際に、子どもと大人、それぞれの視点で異なる照明手法を取り入れている例をご紹介しましょう。
2019年8月に竣工した沖縄県・宮古島市の「宮古島市未来創造センター」。センター内にある図書館では、天井には照明器具を設置せず、書架に内蔵されたライン照明が書籍を照らすとともに、通路照明としての役割も果たしています。この書架照明では、書架の高さが子どもと大人で異なっていることを考慮して光の広がり(配光)を使い分けており、子ども書架では拡散配光を、一般書架では光をより遠くまで飛ばすことのできる狭角配光を使用しています。これにより、子ども書架はやわらかい印象の光で照らされ、高さのある一般書架は足もとの書籍ならびに通路の明るさを確保することができているそうです。
※子ども書架の高さ:約135cm、一般書架の高さ:約165cm

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参考:遠藤照明 納入事例「宮古島市未来創造センター」


“平均”ではなく、“個人個人”に寄り添った光環境。
その実現の一歩として、「視界」の違いを忘れないようにしたいですね。