しかし、夜間に光を浴びるなとはいえません。
では、夜の照明はどういう光にしたら良いのでしょうか。

夜の光で考えなければならない大きなポイントは、やはり睡眠です。
良い眠りに入る生理的な条件は、血中のメラトニン濃度がスムーズに上がり、同時に体温がスムーズに下がること。
メラトニンとはホルモンのひとつで、生体リズムを整えたり、抗酸化作用、骨粗しょう症進行の遅延、またがん細胞の増殖を抑制する効果もあることが分かっており、からだのさまざまな機能を整える上で重要なものです。

ところが光自体が、メラトニンの分泌や体温の低下を妨げる働きがあります。
そこで、どういった光がこの変化を妨げる力が弱いかを知る必要が出てきます。
メラトニンは光によって抑制されるので、昼間はほとんど出ていません。
夜になると分泌され、夜中の2時ごろピークになり、また朝にかけて減っていきます。
ですが夜に光を浴びると、その分泌量が抑制されてしまうのです。
 
睡眠に入る前に浴びていた光(寝室の光)が、消灯後睡眠時のメラトニン分泌量にどのような影響を与えるかを検証しました。
グラフでは、赤が電球色、白が白色、青が昼光色の光を用いた際、睡眠時にメラトニンがどの程度出たかを表しています。
お分かりのように、電球色の光が、最もメラトニンの増加を妨げる力が弱い。
逆に、昼光色の光が、最もその力が強いということが分かります。

また体温の下がり方を見ると、最もスムーズに下がるのは寝室の照明が3000Kの電球色だった場合ですので、先のメラトニンの結果と併せて考えると、寝室の照明は電球色が最も良い。
逆に昼光色は避けたほうが良いということになります。
実際に睡眠中の脳波を測り、眠りの深い時間の長さを調べてみても、やはり、寝室の照明が電球色の場合と昼光色の場合で統計的な違いが出て、昼光色のほうが深い眠りが少なくなるという結果が出ました。

また光の波長でいうと、短波長の青い光が最もメラトニンを抑制するということが分かっています。
では短波長の光をカットすればいいのかということになりますが、非視覚的には良くても演色性が悪くなりますので、この辺りのバランスをどう取るかというところが今後の課題になっていくのだろうと思います。
ご存じのようにLEDは青色光を主体的に使いますので、そういうことをきちんと踏まえて分光分布まで考えていくことが、PAデザインのひとつの仕事になっていくでしょう。

3年ほど前に、台湾の工業技術研究院というところと共同研究をして、どのようなLEDの光ならからだに悪い影響が少ないかという実験をしました。
RGBのLEDを用いて、2300K、3000K、5000Kの3つの分光分布の光をつくりました。
結果としては、非視覚的には2300Kと3000Kが良く、演色性も含めると総合的に3000Kが良いという結果になりました。
実際に試作の3000KのLEDを使い、従来の3000Kと5000Kの蛍光灯とともに、メラトニンの抑制率を比較する実験を行いました。
ここでは、いずれの蛍光灯とも暗いときよりメラトニンの増大は統計的にみられませんでしたが、3000KのLEDでは有意にメラトニンの増大がある(光による抑制力が小さい)という結果が出ています。

またリズムのズレについても実験を行いました。被験者は朝から実験室にこもり強い光にさらされないようにします。
そして夜12時ぐらいから90分間光にさらします。
この光が翌日のリズムにどう影響したかを2日目に確認しようという実験です。
メラトニンが増加をし始める時刻が2日目にどの程度ずれるかを以って、このリズムのズレを判断しました。
たかだか90分間の光では影響は出ないだろうと思っていたのですが、実際には5000Kの場合に約45分、リズムが遅れるという結果が出ました。
LEDでも蛍光灯でも、3000Kでは統計的にみて遅れは出ませんでした。

このように、寝室での照明の影響としては、生体リズムを遅らせたり、メラトニンの分泌を抑制する作用があり、体温の下がり方も小さくなる、眠りも浅くなる傾向がある、またリズムが遅れるということは、寝付く時間が遅れる傾向があるということがいえます。またこういった影響は、夜に関しては、電球色より昼光色のほうが大きいことが分かっています。
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