眼について考える(2) ―第三の眼「松果体」―2013.10.23

日に日に密度を増していくように秋が深まるこの季節。
澄み渡る高い空、うろこ雲、風にそよぐコスモス、赤や黄に染まる木々。四季の機微が一番眼に見える形で現れるのは秋なのかもしれません。こうして視覚的にも「実りの秋」を楽しみながら、前回に引き続き、眼について考えます。
眼はそのあまりに複雑な構造ゆえに“奇跡”として扱われることがあるほど神秘的な器官です。人体の神秘の結晶である眼の進化を辿るとき、三つ目の眼の存在が見えてきます。
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第三の眼「松果体」
漫画などでよく目にする、二つの眼の間に位置するもう一つの眼。実は、この眼は決して空想のものではありません。驚くことに、私たちの遠い祖先は「第三の眼」を持っており、私たちもその名残をとどめているのです。

眼は、明暗を感知する原始的な機能に端を発し、ヒトを中心とする哺乳類の一部において、鮮明な像の感知、色の識別といった高度で複雑な機能をもつ器官に発達していったといわれています。この進化の過程で、脳に残ったといわれる眼こそが、第三の眼「松果体」です。
松果体は「頭頂眼」と同じ起源を持っています。二つの眼同様、水晶体や網膜を持つ頭頂眼は、カマキリなど昆虫の一部や、トカゲ類の一部に現在も備わっており、ヒトを含むほとんどの動物が第三の目をもつ可能性があったという進化の変遷をそこに垣間見ることができます。
松果体は頭蓋骨の中で成長するため、頭頂眼のように外見から認識することはできませんが、眼としての機能が退化した今でも、光に反応して働く細胞(光受容体)をもつことが確認されています。
それでは、この松果体、具体的にはどのような役割を果たしているのでしょうか。


松果体とサーカディアンリズム
動物、植物、菌類、藻類といったほとんどの生物に備わっているサーカディアンリズム(概日リズム)という生理現象があります。
02.時計これは、生物における昼と夜を作り出す一日のリズムであり、睡眠サイクルや、血圧・体温・ホルモン分泌などの変動が例として挙げられます。ラテン語でサーカは「約」、ディアンは「一日」、つまり「約一日」という意味であるサーカディアンリズムは、厳密には24時間ぴったりではありません。光や温度、食事といった外界からの情報によって24時間に修正されているのです。この修正を行い、サーカディアンリズムの規則化というとても大切な役割を果たしている器官こそが、松果体です。具体的には、眼や皮膚が感じた光刺激に光受容体が反応することで、メラトニンと呼ばれる睡眠を誘発するホルモンを出す役割を担っています。夜になるとメラトニンが分泌されることで眠りへの準備が行われ、朝に光を浴びるとメラトニンの分泌が抑制され、体が活動状態に切り替わります。このように、サーカディアンリズムを統制する“司令塔”松果体は、見えないところで私たちのからだをコントロールしているのです。


松果体とダイエット
03.焼き芋軽食欲がなくなりがちな夏とは違い、秋の味覚とダイエットの狭間で揺れ動く人が多いこの季節。実は、ダイエットにおける新たな視点が松果体に隠れています。
驚くことに、松果体が刻むサーカディアンリズムはエネルギー代謝と密接な関係があることでも知られているのです。
睡眠障害により肥満になるリスクが高まること、夜間労働者には肥満や脂質異常症が多いことなどがその例として挙げられますが、これはサーカディアンリズムの乱れがエネルギー消費量の減少を引き起こすことを示しています。つまり、同じ食事量を摂取していても、体内で正しくリズムが刻まれている人は太りにくく、リズムが乱れている人は太りやすいということです。
最近では、2013年1月に奈良県立医科大学が、528人の高齢者を対象に行った研究により、夜間の豆電球のようなごく低照度の光でも、3lx(ルクス)を境に、肥満症や脂質異常症の有病割合が1.9倍になることを発表しましたが、これはまさに、松果体を含むヒトの器官が私たちの想像以上に光に対して敏感であることを示しています。

参考:奈良県立医科大学『夜間の豆電球使用が肥満・脂質異常症のリスクになる可能性を示唆』



光環境と肥満の関係についてはまだまだ研究段階ですが、――光→松果体→サーカディアンリズム→代謝――、この一連の矢印を意識し、24時間適切な光環境を松果体に届けてあげることが、”太りにくい体”、さらに言えば”健康な体”への近道であることは間違いないでしょう。


人類が人工照明を発明したその時から、夜中でも昼間と変わらない明るさを作り出すことが可能になり、私たちは太陽から自由になりました。しかし、その結果、現代人は自然な光環境に比べて、日中は屋内生活が多いため光を浴びる量が少なく、夜間は人工照明により光を浴びる量が多くなる傾向にあります。そしてその傾向こそが、サーカディアンリズムという生物において必要不可欠なシステムの乱れを引き起こす原因となっています。
好きな時間に好きなだけ明るくも暗くもできる現代だからこそ、自分の頭蓋骨の中にある「松果体」の存在を思い出す必要がありそうです。眼としての機能が退化した“第三の眼”がいま見つめているのは、私たちの体そのものなのかもしれませんね。