眼について考える(1) ―暗順応・明順応―2013.09.25

私たちが日常的に享受する情報のうち、80%以上を受け止めているといわれる「眼」。ヒトは視覚情報に大きく依存しています。
私たちの眼は一体、何を捉えているのでしょうか?
今回は眼の基本的な特性について考えたいと思います。
眼①top


眼の起源
kaitei生物はいつ、眼を持つようになったのでしょうか?眼を持たない単細胞生物も、光受容タンパク質を持ち、光と闇が分かります。クラゲや貝類など多くの原始動物が持つ「眼点」と呼ばれる器官は、光刺激を電気信号として筋肉へ直接送ります。彼らは脳を持たないため物を見ているわけではないとされていますが、こうして光に反応することができるのです。
このような感光器官としての起源は、生物が陸へ上がる前、カンブリア紀初期には海の中で始まっていたといわれています。この光を捉えるセンサーは、多くは捕食のため、または敵から身を守るためにありましたが、この器官の発達が生物を爆発的に進化させたといわれているのです。

写真:http://sora0922.blog57.fc2.com/



光とヒトの眼
さて、冒頭で申し上げたとおり、ヒトは視覚情報に大きく依存しています。生物によっては、進化の過程で嗅覚がより発達したもの、場合によっては視覚を失うものもある中で、ヒトは視覚を選択したといえるでしょう。私たちの眼の中では角膜や水晶体、虹彩など10を超える要素が集合し、光の量を調節したり、ピントを合わせたりしながら、光を情報として脳へ届ける役割を果たしています。中でも、網膜に存在する視細胞は、光刺激を吸収し電気信号へと変換する役割を担っており、照明を考える上では無視できない存在です。
視細胞には桿体、錐体と呼ばれる2種類があり、桿体細胞は明暗を認識し、錐体細胞は色彩を認識する働きを持っています。錐体細胞は光量が小さいと機能しないため、暗い環境では桿体細胞のみが機能し色覚は生じません。そのような状況での視覚を「暗所視」といい、反対に光量が十分にある場合の視覚を「明所視」といいます。


暗順応と明順応
明るいところから暗いところに移動したとき、最初は何も見えませんが、徐々に“眼が慣れてくる”という感覚を味わった経験は皆様お持ちだと思います。これは作用する視細胞が、錐体から桿体へ切り替わることによって起こる現象で、「暗順応」といいます。またその逆は「明順応」です。明所視では桿体細胞内のロドプシンという物質が分解され、暗所視ではこの逆のことが起こります。そのため、明順応は40秒~1分で完了するのに対し、暗順応は30分~1時間かかってしまうというのも特徴です。
tunnel日常の空間の中で、最もこの暗順応・明順応に配慮された照明はやはりトンネル照明といえるでしょう。トンネルが適切に照明されていなければ、昼間、外の明るさに順応した運転者の目には、トンネル入口はブラックホールのように暗く見えます。このままトンネル内に進入すれば、暗順応が不十分なまま、入口付近の障害物が見落とされる危険性があります。トンネル照明ではこのような外と中の明るさの差を緩和し、運転者の順応状態に応じた適切な照度を確保するための計算がされているのです。季節や天候によっては、トンネルだけではなく日常生活の中でも、屋内と屋外の明るさの差につい目がくらんでしまうこともあります。節電のため消灯されている場合もあると思いますが、例えば、建物のエントランス、地下鉄の出入口など、このような理由で明るさが必要な場合もあることを知っておくことが大事ですね。

参考・写真:一般社団法人建設電気技術協会 基礎知識 「トンネル照明における視認性」



プルキンエ現象
もう一つ、視細胞の特性による現象をご紹介しましょう。先に述べたように、暗所で機能する桿体細胞は明暗のみに反応するため、暗所視の状態では色の識別が難しく、加えて、短波長側に感度が高いという特徴があります。

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<CIE標準視感度曲線>

左の図は、明所視と暗所視における感度と波長のグラフです。明所視では長波長側に感度が高く、 暗所視では短波長側に感度が高くなっていることが分かります。このことから、明所視から暗所視へ移る際、赤いものは相対的に暗くなり、青いものは相対的に明るくなるという現象が起こります。これをプルキンエ現象といいます。完全に桿体細胞のみが作用する暗所視の場合は色が見えなくなりますが、このときもプルキンエ現象が起こっています。例えば同じ明るさの赤と青の物体があるとき、暗所視では双方灰色に見えますが、赤の物体より青の物体のほうが明るい灰色に見えるのです。
※CIE国際照明委員会で標準的な視細胞の感度が制定されています。
例えば天体観測で器械の操作や星図、地図を見るためにはあかりが必要となりますが、通常の照明ではせっかく暗順応して星が見やすくなった眼が明順応してしまい、また戻るまでに30分あまりを要してしまいます。そこで、プルキンエ現象を利用し、桿体細胞の感度の低い赤色光の照明を用いることで、桿体の飽和を防ぎつつ錐体による視力を確保するのだそうです。
これとは逆に、短波長成分を多く含む光を使うことで照度以上に明るく見せる防犯灯も存在します。また、青地に白文字で書かれた案内標識は、夜道でも視認しやすいですよね。これもプルキンエ現象が起きているためといえるのではないでしょうか。


このように、眼の特性を知ることで、より安全に、より快適になることがほかにもあるかもしれません。様々な角度から考えると、照明も空間づくりも、まだまだ奥深いものがありますね。