「暗い」をたしなむ2017.07.06

日本の照明環境は、世界に比べてかなり「明るい」といわれています。
その背景には、「目の色が黒く、眩しさに強いこと」「戦後、明るい蛍光灯が豊かさの象徴として普及したこと」などがあるようです。
明るい環境に慣れ親しんだ私たちですが、今回は、“暗いからこそ”見えるもの、に焦点を当ててみたいと思います。
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空に広がる間接照明
hakumei太陽が沈んだあと、すぐには真っ暗になりません。
数十分というわずかな時間。昼の終わりと夜の始まりをゆるやかにつなぐかのように、空は特別な表情を見せてくれます。

地平線の下に隠れた太陽から空にかけて広がる大きく柔らかな光。
このぼんやりとした明るさを「薄明」「トワイライト」と呼びます。
さらに、天気が良く、雲がない、空気が澄んでいる、という好条件が重なれば、辺り一面が青い光に包まれる現象「ブルーモーメント」が現れることも。
薄明やブルーモーメントの時間帯には、まるで魔法のように素敵な写真が撮れることから、「マジックアワー」と呼ばれているそうです。

このような空の表情は、地平線の下にある太陽の光が、上空の大気によって散乱されるために生じます。
光源を隠し、光だけが抽出される。
その様子はまさに、地球規模での“間接照明”ということができるでしょう。

カーテンを閉め、照明をつける、その前に。
光と色の美しいグラデーション。闇に溶け合い始める陰影。“空に広がる間接照明”を楽しんでみてください。

 


「暗い」を楽しむ
谷崎潤一郎の著書『陰翳礼讃』に、こんな一節があります。

羊羹の色あいも、あれを塗り物の菓子器に入れて、肌の色が辛うじて見分けられる暗がりへ沈めると、ひとしお瞑想的になる。人はあの冷たく滑かなものを口中にふくむ時、あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ、ほんとうはそう旨くない羊羹でも、味に異様な深みが添わるように思う。


youkan暗さを効果的に用いて、羊羹をより深く味わう様子が表現された、面白い一節です。谷崎は、さらに、味噌汁や白飯、それらを入れる食器にも触れ、和食は闇や陰影と切っても切れない関係だと述べています。

和食をはじめ、化粧や建築、…
日本には、闇や陰影のなかに美や価値を見いだす文化がたくさんあります。

谷崎の羊羹のように、いつもと同じ行動を、いつもより少し暗い環境で行ってみる。
その中で、思いがけない発見や楽しみが見つかるかもしれません。
私たち日本人は、本来、「暗い」を楽しむことがとても得意なのですから。

 


都会で星を見る
tokai都会では星が見えない。
その原因を大気汚染だと思っている人も多いのではないでしょうか?
実は、一番の原因は、星以上に明るい光、すなわち、街灯、看板照明、家から漏れる光、車のヘッドライトなどの人工光です。

人間の目は、暗いところではより多くの光を求めて瞳孔を広げますが、明るいところでは光の量を減らそうと瞳孔を縮めます。
たくさんの人工光があふれる都会の夜は明るく、瞳孔が収縮した状態となるため、私たちの目は星の小さな光を感じることができないのです。

言い換えると、都会でも、暗い環境を確保することができれば、星を楽しむことができます。

――地球温暖化防止を目的に、全国のライトアップ施設や各家庭の照明の一斉消灯を呼び掛ける。
環境省が2003年から実施している「ライトダウンキャンペーン」をご存知でしょうか?
本年の実施日は、夏至の日(6月21日)とクールアース・デー*(7月7日)両日の夜8時から10時です。
*クールアース・デーとは
2008年のG8サミット(洞爺湖サミット)が7月7日の七夕の日に開催されたことを契機に定められました。天の川を見ながら、地球環境の大切さを再確認し、年に一度、低炭素社会への歩みを実感するとともに、家庭や職場における取組を推進するための日です。


七夕の夜のひとときは、星を楽しむチャンスです。
いつもより少し暗い夜空のもと、織姫と彦星を探してみてはいかがでしょうか?

参考:環境省「ライトダウンキャンペーン」

 



私たちは、人工光によって24時間昼間と変わらない明るさで生活することができます。
その反面、「暗い」は自らが望まないと、手に入りにくくなっているのかもしれません。

「明るい」に感謝しながら、「暗い」をたしなむ。
光も、闇も、陰影も。生活に豊かさをもたらす存在なのではないでしょうか。

終わりに、『陰翳礼讃』の最後の一節をご紹介します。

まあどう云う工合になるか、試しに電燈を消してみることだ。