目の健康を守る光(2) ―「働く目」「老眼」編―2016.09.20

「目の健康を守る光」について、全2回でお届けしています。
第1回では、目のしくみをおさらいするとともに、「子どもの目」に注目しました。
第2回のテーマは「大人の目」です。長時間パソコンと向き合う「働く目」を守る方法、さらに、「老眼」にとって見やすい光環境について考えてみたいと思います。
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協力:南青山アイクリニック副院長 井手武先生


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第1回 目の健康を守る光 ―「子どもの目」編―

第2回 目の健康を守る光 ―「働く目」「老眼」編―

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第2回 目の健康を守る光 ―「働く目」「老眼」編―


働く目を守る光
毎日長時間のパソコンワークに追われている人は要注意!
「VDT症候群」という病気を知っていますか?

(1) VDT症候群

vdtVDTとは、Visual Display Terminal(ビジュアル・ディスプレイ・ターミナル)、すなわち、パソコンやスマートフォンなどのディスプレイ機器のことです。VDTを使用した作業を長時間行うことにより、目のトラブルをはじめ、身体や心に影響のでる病気を「VDT症候群(別名:テクノストレス眼症、IT眼症)」といいます。
厚生労働省1)によると、現在、コンピュータ機器を使用している事業所の割合は97.0%に達しています。その中で、仕事でのパソコン作業により、身体的な疲労や症状を感じている人は約70%、このうち90%以上の人が「目の疲れ・痛み」を訴えており、VDT症候群もしくはその予備軍であるといえます。
働く目をVDT症候群から守るため、ディスプレイまわりの光環境について考えてみたいと思います。
1)厚生労働省「平成20年技術革新と労働に関する実態調査」

 

(2) VDT症候群から目を守る、適切な明るさとは?

第1回でご紹介したように、ディスプレイなど近くの発光面を長時間見つめる作業は、ピント調節のために働く毛様体筋ならびに瞳孔を縮める虹彩の筋肉がずっと収縮していることになるため、目の疲労につながります。
さらに、ディスプレイの背景となる壁面や、キーボード・原稿など手元の作業面の明るさにも注意が必要です。視界のなかに明暗の差があると、虹彩の筋肉が、明るい部分と暗い部分の両方に対して常に調整を繰り返している状態となり、目の疲労の原因になってしまうのです。

このように、ディスプレイとその周囲の明るさは、目の疲労に直結した問題です。作業に必要な明るさを確保するとともに、明暗の差をなるべく小さくすることが大切です。

<ディスプレイまわりの適切な明るさ>
A:ディスプレイ表示面 …100 lx程度2)
B:キーボードや原稿など手元の作業面 …500 lx程度3)
C:ディスプレイの背景領域 …300 lx程度4)
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※AとCは鉛直面、Bは水平面で検討しましょう。

2)文部科学省「学校環境衛生基準」では、『コンピュータ等の画面の垂直面照度は、100~500lx程度が望ましい』とされており、日本建築学会環境基準「照明環境規準」では、『ディスプレイ面は低照度が望ましい』とされている。近年のディスプレイは高輝度のものが多いことを踏まえ、ここでは「学校環境衛生基準」の最小値である100lx程度とした。
3)「JIS Z 9110:2010照明基準総則」、日本建築学会環境基準「照明環境規準」より
4)照明学会誌第75巻第6号「事務所で局部照明を併用する場合の好ましい照度バランスに関する研究」では、作業面照度500lxに対して必要な周辺壁面照度の最適値を270~330lxとしている。ここでは中間値である300lx程度とした。



老眼にやさしい光
VDT症候群に引き続き、大人の目を悩ませる存在「老眼」について考えてみたいと思います。

(1) 加齢による目の変化

年を重ねるにつれ、目も“老化”します。
具体的には、どのような変化が起きているのでしょうか?

○瞳孔が小さくなる
瞳孔の大きさは、20歳代に最も大きくなり、加齢に伴い、小さくなっていきます(=老人性縮瞳)。
これにより、目に入ってくる光の量が少なくなるため、同じ明るさの光環境であっても、若い人に比べて暗く感じるようになります。

○水晶体が濁る
長年にわたる紫外線の蓄積により、水晶体の構成要素であるタンパク質が白く濁っていきます(=加齢性白内障)。
その結果、目の中で光が乱反射するため、光をまぶしく感じるようになります。

○水晶体が硬くなる
紫外線の蓄積は、水晶体の弾力も低下させます。
水晶体が硬くなることで屈折の力が弱まり、ピントが合う距離の範囲が狭くなります(=老眼)。


このような目の変化は、誰もが避けることのできない老化現象です。
特に、老眼は、“老”と表現するには早すぎるような40歳前後から始まるため、長く付き合っていかなければなりません。


(2) 老眼にとって見やすい光とは?

rougan老眼とはすなわち、「ピント調節力の低下」です。
つまり、老眼にとって見やすい、とは「ピント調節が働きやすい」状態だと言うことができます。

加齢による目の変化を踏まえ、ピント調節が働きやすい光の条件を考えてみましょう 。

 

<老眼にとって、ピント調節が働きやすい光の条件>
1. 視対象が“明るい”
視対象が明るいと、目に入る光の量を減らそうと瞳孔が縮むため、焦点深度が深くなり、ピントが合いやすくなります。
前述したように、加齢によって目に入ってくる光の量は少なくなります。その点を考慮し、JIS照明基準5)では、高齢者など視機能が低い作業者の場合は、設計照度を、推奨照度の値から1段階高くすることが望ましい、としています。
(例)事務室の場合…推奨照度750 lx → 1段階高い値1000 lx
5)JIS Z 9110:2010照明基準総則

2. 視対象とその背景の“コントラストが明確”
視対象とその背景において、コントラストすなわち明暗の差は、視対象の輪郭や距離感という情報になるため、コントラストが明確であればあるほど、ピントが合いやすくなります。
コントラストが明確でない空間の例としては、部屋全体が真っ白、かつ間接照明のみで構成されている空間などが挙げられます。このような空間にコントラストをつくり出すには、視対象を照らす補助照明(スポットライトやデスクスタンド)を設置することが有効です。

3. ”色温度が低い”
まぶしさは、見え方の低下を引き起こし、ピント調節を阻害する要因になります。
光の色を表す色温度は、高い(=青白い)ほどまぶしさを感じやすく、低い(=赤っぽい)ほどまぶしさを感じにくい6)と言われています。
前述したように、高齢者の目は特にまぶしさを感じやすくなっています。色温度を低くすることでまぶしさを低減することは、ピント調節が働きやすい視環境を整えるために効果的だと言えるでしょう。
6)照明学会誌第77巻第6号「高齢者の不快グレア ―光色との関係―」



全2回でお届けした「目の健康を守る光」。
目のしくみや働きを改めて整理することで、目にとって本当に“やさしい”光の姿が少しずつ見えてきました。
「子どもの目」や「老眼」は、現在も議論が多く残る分野であるため、今後のさらなる研究に期待したいですね。

eye_idetakeshi井手 武  Takeshi Ide
南青山アイクリニック副院長

大阪大学医学部卒業。大阪大学眼科学教室、大阪警察病院、大阪大学大学院医学系研究科(医学博士)、Miami大学留学を経て、南青山アイクリニック勤務。
レーシックはもちろんのこと、フェイキックIOLや円錐角膜手術まで、多岐にわたる手術を手がける。研究論文も多数執筆。
また、JINSPCの開発にも携わり、ブルーライト研究の第一人者としても多方面で活躍中。

 

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目次
第1回 目の健康を守る光 ―「子どもの目」編―

第2回 目の健康を守る光 ―「働く目」「老眼」編―

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