照明環境の「新しい規準」について考える2016.10.19

照明環境における「新しい規準」について、全3回でお届けしています。
いよいよ最終回となる今回は、2016年6月に発表されたばかりの「日本建築学会環境基準 照明環境規準(AIJES-L0002-2016)」について、要点をわかりやすくご紹介します。
次世代照明環境設計の枠組みとなる本規準の内容は、かなりハイレベルなものになっているようです。

日本建築学会発行図書(環境工学)
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監修:東京大学大学院工学系研究科・教授 平手小太郎先生


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目次
第1回 正しく理解していますか?JIS照明基準

第2回 大切なのは「輝度」

第3回 新しい規準:アンビエント照明とターゲット照明

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第3回 新しい規準:アンビエント照明とターゲット照明
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(1) 背景と目的

室内における適切な照明環境の形成や普及を目的として、エネルギー有効利用の観点を含みながら、照明環境設計のための要件を示し、可能なものについては推奨値または目標値を定める(後略)。

「1.1 規準の目的(AIJES-L0002-2016)」より


本規準の背景には、2011年3月に発生した東日本大震災および福島第一原子力発電所の事故に伴う電力供給不足があります。
この非常事態による節電の経験をきっかけに、「照明設計が照度に偏重し過ぎている状態を見直し、できる限り小電力で本来あるべき照明環境を創造するために、照明環境設計方法および照明環境の基準の構築1)」を行ったのが本規準です。
そのため、「エネルギー消費を最小限に抑える」ことに重点を置き、「省エネルギー規準」を定めています。
また、近年の照明シミュレーションソフトの発達により、私たちでも簡易計算による輝度分布の算出が可能になったことを受け、設計規準の中心に「照度」ではなく「輝度」を据えています。この点も、既存の照明規準と異なる、大きな特徴であるといえるでしょう。
1)『照明環境に関する緊急提言』(日本建築学会環境工学委員会・光環境運営委員会、2011年5月)


(2) 設計のポイント
本規準を活用する上でポイントとなる用語や考え方を解説します。

 アンビエント照明とターゲット照明

本規準で登場する新しい理念です。

○アンビエント照明
空間の明るさを確保するための照明。
「輝度」による設計を推奨しており、壁面平均輝度、天井面平均輝度において推奨値を定めている。
「輝度」についてくわしく

○ターゲット照明
視作業および視認されることを目的とする視対象(例:机上面、壁に飾られた絵画など)に対する照明。
「照度」による設計を推奨しており、ターゲット面の照度において推奨値を定めている。
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Q:「ターゲット照明」と「タスク照明」って何がちがうの?

アンビエント照明と対になる存在として、現在広く認識されているのは「タスク照明」だと思います。
「タスク照明」は“作業を行う場所”に対する局部照明を指すのに対し、「ターゲット照明」は“視対象(作業を行う場所を含む)”に対する局部照明を指します。
すなわち、「ターゲット照明」における手法のひとつが「タスク照明」、という位置づけになります。



 昼光の取り扱い

エネルギーの有効利用を前提とする本規準では、昼光においても本設計規準を適用するものとし、積極的な昼光利用を促しています。
つまり、設計上では「窓などの開口部 = 照明器具」として取り扱います。


(3) 設計規準
本規準では、作業、活動または用途の大分類ごとに、設計要件に応じた推奨値を定めています。

「6.3 照明環境の設計規準(AIJES-L0002-2016)」より抜粋

○居住
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○事務
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○小売・外食・サービスaijes_kouri_gaisyoku_service

○製造・加工
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<平均輝度の取り扱い>
・本表では推奨される平均輝度の「最小値」を定める。
・床面平均輝度については、本規準では設定しない。
・平均輝度の算定・測定時には、ターゲット面ならびに、開口部・照明器具などの発光部位や強い反射光がある部位を除く。



(4) 省エネルギー規準
輝度を中心とした設計規準を満たすことに加え、「最も少ない電力消費で最大の効果が得られるような照明手法を採用する2)」ことが求められています。その際、省エネルギー性の指標となっているのが「照明消費電力密度」です。
2)「7.3 照明消費電力量密度および照明消費電力密度の算出(AIJES-L0002-2016)」より

○照明消費電力密度
単位面積当たりの照明消費電力[W/㎡]。

<計算式>Wi = Σ(1-反射率)×π×各面の輝度×各面の面積 / Σ反射率×相当照明効率×床面積


本規準では、作業、活動または用途が「事務」の場合に、「5 W/㎡以下」という目標値を定めています。
照明消費電力密度(日平均値) ≦ 5 W/㎡


新しい照明環境規準:まとめ

・「アンビエント照明とターゲット照明」という理念の導入によって、設計規準の中心は「輝度」に。
・「照明消費電力密度」による評価に基づいた、高い省エネルギー性を要求している。



今回ご紹介した「日本建築学会環境基準 照明環境規準(AIJES-L0002-2016)」は、視環境とエネルギーの最適化を目指した、世界に先駆けた最高レベルの要求水準であるといえます。

多くの人が携わる設計業務において、拠りどころとなる基準。
照明環境における基準は、今まさに次のステップへ進もうとしています。

aijes_hiratekotaro平手 小太郎  Kotaroh Hirate
東京大学大学院工学系研究科・教授(建築学専攻)

1954年東京都生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専門課程博士課程修了。建築環境学、特に建築照明学、建築環境心理・生理学の分野の研究、すなわち照明、日照、色彩、景観などの観点から、実験、調査、シミュレーションなどを通じて、光環境、視環境、総合的居住環境における物理的刺激・情報、人間の心理・生理的反応・評価・行動の定量化・モデル化・システム化および環境計画・設計に関する研究を行っている。主要著書「建築光環境・視環境(数理工学社)」。
照明環境規準刊行小委員会の主査を務める。

 

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目次
第1回 正しく理解していますか?JIS照明基準

第2回 大切なのは「輝度」

第3回 新しい規準:アンビエント照明とターゲット照明

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