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MARIOT EYES
2013年12月24日更新

影について考える-2 −影の用法−

前回の『影について考える1--わたしたちと影--』では、影がもつ魅力的な一面として、
影を用いた素敵な作品を中心にご紹介しました。

今回は、影が気付かぬうちに私たちに与えている影響について考えてみたいと思います。
影を上手に用いれば、日常が少し豊かになるかもしれません。



1. 顔と影

時に、女優は“照明が命”といった表現がされるほど、人の表情や雰囲気は、光が顔に落とす影によって大きく変化します。




【 上からの光/下からの光 】

私たちは、基本的に頭上から光を浴びています。
そのため、下からの光によって生まれる陰影には馴染みがなく、不気味な印象を受けます。
この効果を用いて、誰もが一度は、懐中電灯を顔の下から当てて人を怖がらせた経験があるのではないでしょうか。




【 横からの光/正面からの光 】

「モナリザ」のポージングに代表されるように、美しさと斜めの角度には密接な関わりがあることが知られています。
光の照射も同様で、適切な角度で照らすことで立体感や艶が生まれ、人を美しく見せてくれます。反対に、正面からの光は陰影が生まれず、のっぺりとした印象になってしまいます。

影によって、こんなにも印象が変わります。
まるでお化粧をするように、顔に落ちる影を意識する--- 美の追求に、影への配慮は欠かせないようです。


2. 内装材と影

左の写真と右の写真、全く異なる表情をしていますが、実は同じ素材です。





写真提供:日本インシュレーション株式会社


素材の凹凸感、光を照射する方向、素材からの距離、灯数、光源の違い…内装材の表情を決定する条件は数多くあり、それによって生まれる結果もまた無限にあります。

光は暗い場所を照らすためだけの存在ではありません。
光と対になって現れる影によって内装材の雰囲気をがらりと変え、空間演出を行うことが可能なのです。

影と上手に付き合うことで空間のバリエーションは豊かになり、インテリアにおける強い味方になってくれるのではないでしょうか。

カーテンを変えるように、内装材への光の当て方を変える--- 影の“模様替え”も素敵かもしれませんね。


3. 空間と影

1、2でご紹介したような、影が対象物に与える影響は、当然、空間全体においても無視することのできない大切な要素です。
ここでは、空間における影の工夫の例をご紹介します。

■ 商業施設

商品を見ながら店内をうろうろ... その際に歩いている道筋は、自分の意思で決定していると思いきや、店舗側の狙い通りに誘導されていることがあります。
実は、こうした動線作りには「影」の力が必要不可欠です。


たとえば、図のような服飾店を例に考えてみましょう。

一番奥の壁が明るく照らされているため、空間に“明るさ感”を与えると同時に、お客様を店内へと引き込む効果があります。また、スポットライトの照射により、トルソーが浮かび上がって見えます。

こうした手法は店舗の照明計画として一般的ですが、周囲の影が背景となってくれているからこそ、光の効果が得られます。
いくら商品を目立たせたくても、店内が均一に明るい状態では効果は望めません。
奥へ奥へと人を誘引する光。ポイントで鮮やかに照らされる商品。それを支えるために意識的につくられる影。こうして店内に生まれた光と影のリズムこそが、お客様の動線に直結しています。

その他にも、商業施設はブランドごとのコンセプトに応じて、個性豊かな照明計画がなされています。
ある高級車の販売店では、大きな光壁を背景として、車のシルエットが浮かび上がるように計画しているそうです。

光と影を反転させることで、車体のフォルムの美しさを際立たせる手法は興味深いですね。

■ オフィス

店舗などに比べてオフィスでは、作業の効率性を優先に照明計画がされていると思いがちですが、そんなことはありません。

ヨーロッパでは「円筒面照度」により、顔に落ちる影に配慮するための基準が定められています。
この基準の目的は、"Good usual communication"--- つまり日常的な生活空間においてよりよいコミュニケーションをつくりだすこと。作業面の照度だけでなく、人が立っている場所、座っている場所など、顔の高さに応じて数値を定めることで、影が人の印象に及ぼす影響に対してきめ細やかな注意が払われています。
毎日長時間を過ごし、多くの人と触れ合う場所だからこそ、顔が自然に美しく照らされていることが、円滑なコミュニケーションの第一歩なのだと気付かされます。
日本でも、こうした基準が定められる日がそう遠くないうちに来るかもしれませんね。


建物を計画する際、照明計画は終盤であるケースが多いですが、改めて影について考えてみると、光も影も、空間を構成する大切な一要素だと気付きます。
構造や内装材と同じように最初から影について意識することで、思いがけないアイデアが生まれることもあるかもしれません。

これからの「影」の活躍に大いに期待したいと思います。


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