素材と光の方程式2017.03.29

「素材」と「光」は相互に作用する関係です。
空間に広がる光の印象は、空間を構成する素材の色や材質に大きな影響を受けます。また、素材そのものの見え方も、どのような光で照らされているかによって大きく変化します。
今回は、照明デザイナー 永島和弘さんといっしょに、素材と光の組み合わせについてひも解いてみましょう。
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講師:照明デザイナー 永島和弘氏

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素材の影響を受ける光
AとB、どちらの空間が“明るく”見えますか?
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照明器具の数はBのほうが多いのですが、Aのほうが明るく見えるのではないでしょうか。
これは、空間を構成する素材の「反射率」が大きく関係しています。
反射率とは、物体が光を反射する割合のこと。白い壁は約70%の光を反射するのに対し、黒い壁は約5%しか反射しません。そのため、Aのような白い内装の空間は少しの照明器具でも明るくなりやすく、Bのような黒い内装の空間は照明器具を増やしてもなかなか明るい印象にはなりません。
空間に広がる光を考えるとき、素材(=下図の太線部分)の情報が不可欠だといえますね。
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光が決める素材の見え方
bikecloth光は、その広がり方によって「スポット光」と「拡散光」の2種類に分けることができます。

・スポット光…点光源などによって局部を照らす光
・拡散光…面光源などによって広範囲を照らす光


スポット光は一方向から光が当たるため、陰影がはっきりと表れるのが特徴です。
例えば、バイク。バイクは、たくさんの細かなパーツ、つやのある素材で構成されるため、スポット光がつくり出すはっきりとした陰影と映り込みによって、その凹凸と光沢感が強調されます。スポット光だからこそ、バイクが持つハードな印象を際立たせることが可能です(写真上)。
反対に、拡散光はあらゆる方向から光が当たるため、陰影がはっきりと出ません。
例えば、布。拡散光で照らされた布の陰影は緩やかなグラデーションを描くため、凹凸が強調されず、布が持つ柔らかさを演出することができます。(写真下)。

 


『 素材×光=??? 』
今回のテーマは、素材と光の方程式。
建築空間でよく使われる素材と光(スポット光/拡散光)の組み合わせが導き出す”解”を、永島さんに解説していただきました。
嬉しい効果が生まれる組み合わせもあれば、注意しなければいけない組み合わせも。


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永島さん『白つや消し×拡散光=目にやさしい』
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白つや消しと拡散光はとても相性がいい組み合わせです。素材に光源が映り込むことなくあらゆる方向に光を拡散するため、天井面の素材が白つや消しだと、どこにいても手もとが影にならない光環境をつくることができます。
スポット光の下でカッターを使うと、カッターの影が邪魔で切りづらいですが、白つや消し×拡散光の下だと気持ちよく作業ができますよ。
子どもが床に近い高さで遊ぶ保育園・幼稚園や、手もとでの作業が多いオフィスなどに適した組み合わせです。

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永島さん『白つやあり×拡散光=透明感』
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写真は細長く狭い空間ですね。
ただし、壁面の素材が白つやあり、奥には拡散光が広がっていることで、壁面に奥の景色が映り込み、空間に透明感が生まれています。この透明感が狭さを緩和してくれています。
さらに、景色の映り込みには誘導効果もあるため、白つやあり×拡散光の組み合わせは、「幅は狭いけど…でも素敵にしたい。」なんて通路におすすめです。

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永島さん『黒つや消し×拡散光=落ち着く』
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写真の和室は、黒つや消しの塗り壁に横方向からすりガラス越しの拡散光が広がっています。黒つや消しと拡散光の組み合わせは、陰影と素材との境目が曖昧になります。
エッジの消えたシームレスな空間は落ち着いた印象に。
畳や障子など、和室を構成する素材にはつや消しが多い気がしますね。

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永島さん『(白つや消し+黒つやあり)×拡散光=意外と広い』
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写真の空間は、壁・天井面が白つや消し、床面が黒つやありの素材で構成されています。床に設置されたアッパーライト(光を上方に照射する照明器具)の光が天井面で拡散されて空間全体が明るい印象に。さらに、つやありの床面には次の部屋の景色が映り込み、下方向にも広がりが生まれています。
窓のない閉鎖的な空間にも関わらず、意外と広く感じる気持ちの良い空間になっています。

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永島さん『白つやあり×拡散光(間接照明)=見えちゃう』
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写真は、受付カウンターの下に間接照明が設置されています。
…が、白つやありの床面に光が映り込み、光源の粒々が丸見えに。隠したはずの照明器具も恥ずかしがっていることでしょう。
このように、つやあり素材と間接照明は、とても相性が悪い組み合わせです。映り込みによる失敗が多いので、気をつけてくださいね。




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永島さん『ガラス×拡散光=圧迫感が減る』
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ガラスは光を鏡面反射してしまうため、映り込みは避けることができません。効果的に利用しましょう。
写真は、ロンドンのザ・シャードというビルです。外壁を覆うガラスが空に向けて少し傾いていることで、太陽という自然界の拡散光を受け、近くから見ても遠くから見ても空だけが映り込んでいます。超高層ビルにも関わらず、映り込みの効果により、圧迫感を感じさせない佇まいになっていますね。
ロンドンの曇天によく馴染むデザインだと思います。

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永島さん『ガラス×キラキラ=きれい!キラキラが倍になってお得!』
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イルミネーションが、向かいのビルのガラスにも映り込んでいます。キラキラが倍になってきれいですね。
光を扱う時は、光を直接受ける素材だけでなく、その周囲の素材にも着目すると、お得な効果が得られるかもしれませんよ。

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永島さん『展示品の周囲が鏡+スポット光=鏡に映ったスポット光が一番目立つ』
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ガラス(鏡)の映り込みは上手に使えば効果的ですが、失敗もつきもの。
例えば、展示品の周囲に鏡を配置する際などは要注意。
展示品を照らしているはずのスポット光が鏡に映り込み、展示品よりも目立ってしまうという結果に…。




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永島さん『木×(拡散光+色温度が低い光)=情緒』
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木を扱う際には、光の色(=色温度)に注目してみましょう。温かみのある木と色温度が低い(赤っぽい)光はとても親和性が高いです。
行灯からの赤っぽい拡散光が木に広がる様子は情緒がありますね。



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永島さん『凹凸×拡散光/スポット光=リズム』
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凹凸の仕上げと光は相性がいいです。凹凸が光を受けることで、仕上げに表情やリズムが生まれます。
室内では、カーテンやブラインドも凹凸リズムをつくる大切な要素です。
ヨーロッパの建築外壁には、石貼りによる目地や装飾が多い印象がありますが、この目地や装飾が光を受けることによって、建築の形が浮かび上がるとともに、街並みにリズムが生まれているように感じます。




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永島さん『(白つや消し+黒つやあり)×拡散光=ヴィーナス!』
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番外編として、ルーヴル美術館にあるミロのヴィーナス像をピックアップ。どのように素材と光が組み合わされているのか、考察してみましょう。

ヴィーナス像は白つや消し、背景の壁面は磨かれた黒つやありの素材です。写真には写っていませんが、横に開口部があり拡散光(外の光)によって照らされています。
「白つや消し×拡散光」の組み合わせは、女神像にふさわしい、柔らかなグラデーションの陰影をつくり出します。
さらに、黒つやありの壁面は、光を吸収せず、反射・拡散するため、ヴィーナス像がより多くの光を受ける結果となり、その存在をさらに際立たせています。ヴィーナスのための特別な組み合わせになっていると思います。




素材と光、建築と光を”いつも一緒”に考える。
永島さんの『素材と光の方程式』は、空間の可能性を広げる手法の一つとして活躍してくれそうです。
内装材選定や照明計画の際に、ぜひ取り入れてみてくださいね。

nagashimakazuhiro <講師>永島 和弘  Kazuhiro Nagashima
照明デザイナー
合同会社チップス代表 日本国際照明デザイナーズ協会 理事

1978年 千葉県生まれ
2001年 東海大学工学部建築学科卒業
2001年~ LIGHTDESIGN INC.
2011年 渡英
2012年~ 照明デザイン事務所 合同会社チップス
主な物件は「アソビズム本社オフィス」「神田川ふれあい広場 富士宮市」など。